ダブルクロス3rdリプレイ小説Satan Cross

※ダブルクロスについて解説はこちらの記事参照
目次
【ダブルクロスThe 3rd Edition オリジナルシナリオ”SATAN CROSS”】トレーラー
昨日と同じ今日、今日と同じ明日。
世界は繰り返し時を刻み、変わらないように見えた。
だが既に、地球には巨大隕石が迫っていた――
北海道に存在する地方都市、神楽市。
時は聖夜という記念すべき日を前にして、長きに渡る因縁に決着がつこうとしていた。
サタンクロースーー人々の集合無意識が生み出した伝説のレネゲイドビーイング。
これまで数々の哀しみを生み出してきたジャームが討伐される。
彼が絶命したかと思われたその時、邪悪なレネゲイドが地球を覆い巨大隕石が急接近してきた。
この事態に対して、UGNは緊急対策本部を設立。
これにゼノスが合流し、地球の滅亡を阻止するべく力を合わせることになった。
巨大隕石落下まであと6時間ーー君たちは聖夜を迎えられるか?
Dx3rd クリスマスシナリオ
「SATAN CROSS」
ダブルクロス――それは裏切りを意味する言葉。
【オープニングフェイズ】
******
【オープニング1:SATAN CROSS】
シーンプレイヤー:求聞寺 麗華(ぐもんじ れいか)
北海道札幌市――マイナス12℃を記録する北でもっとも栄えた都市は暗闇の中ちらちらと舞い降りる雪に彩られていた。
時刻は18時になるかならないかというところ、それにしてはこの闇は深すぎる。
暗く染まった雲には雷が帯びており、不自然なまでに一か所へ集中していた。
長さ約1.5km、面積約7.8ha(ヘクタール)という広大な大通り公園を見下ろすさっぽろテレビ塔の頂上。
超自然的な力で雷雲はそこに集約されており、凍てつく大地を灼熱に包み込む最後の決戦が繰り広げられようとしていた。
ここは既に火薬庫だ、数々の因縁や怨念を爆薬として集積されもはや爆発寸前だ。
それに火をつけるべく展望フロアより天辺へ向かうため、階段へ足をかけていく少女の姿があった。
つい半年ほど前まではただの人であった彼女はいまや変貌し、人ならざる超人”オーヴァード”となり世界の真実を知った。
この世界を否定するわけではないが、しかし。
超常の力をもたらすレネゲイドウィルスに我が身を蝕まれ、変わらぬ日常を送れなくなった――非日常の世界の住人に己を変えた”奴”と決着をつけねばならない。
ビニル床を踏みしめた彼女へ、身の丈ほどもある片刃の剣を担いだ少年が声をかける。
オーヴァードの力に覚醒してから共に戦い、彼女を支え続けてきた相棒、UGNチルドレンの矢野 逸人(はやと)が心配そうに
されど頼もしさを感じさせる強い意志をにじませた低い声で問いかけた。
心の奥に眠る不安を見透かされてしまったその反発か高圧的に、しかし絶対的な信頼を匂わせる言葉を求聞寺 麗華は返す。
UGNチルドレンとしてオーヴァードの力を制御する訓練をこなす日々に明け暮れていた矢野には馴染みのない料理だった。
“なぜパーティーに野鳥を欲しがるのか”矢野にはわからぬ。
「飼うのか?」とでも言いたげな怪訝そうな表情で彼は麗華を見つめている。
だったらなおのこと乗り越えないと、一緒にケンタッキー食べにいくのだわ。
二人は意を決し、重たい鉄製の扉を開いて足を踏み入れていく。
冷たい寒気が彼らを迎え、闇夜に降りしきる雪はまるで砂丘で光り輝く砂粒のようにその目には映る。
聖夜の夜にうら若き男女がそのような幻想的な光景と出会えばノスタルジーに浸ることもできたろう。
だが、アンテナを中心として禍々しい紫色のモヤが今や空を覆っており、それが人を化け物へ変えてしまうレネゲイドウィルスであることを理解する彼らには、そんな感傷にひたる余力はなかった。
アンテナに触れた手から自らのレネゲイドを送り込む赤衣の老人が二人を見据えると、笑みに顔を歪ませる。
好々爺らしき笑顔を浮かべたこの老人こそが諸悪の根源であるサタンクロースである。
決して、酔狂なただの老人ではない。一般人であるのならば、ただのオーヴァードであるのならば二人のコードネームを知る由もないのだから。
諸手を広げて彼らを迎え入れたサタンクロースの背後でアンテナが閃光を発し、スパークする。
このまま捨て置けばサタンクロースのブラックドッグの能力によって異常放電を起こしたテレビ塔の電波に乗って
全道へレネゲイドウィルスは拡散され、北海道中を汚染したそれらの勢力は北風にのり瞬く間に全世界を犯していくことだろう。
そうなれば全人類がより高濃度のレネゲイドウィルスに蝕まれ、多くの死傷者とジャームを生み出すことになる。
世界の真実をもはや守ることは叶わず、誰が理性なき怪物”ジャーム”なのか誰が人の心を残したオーヴァードなのか
人々は人々を疑い、疑わしきを吊るし上げ中世の魔女狩りじみた異端者狩りへ発展し、世界は混沌の渦に飲まれてしまう。
これこそがUGN(ユニバーサルガーディアンズネットワーク)が真実を秘匿する理由だ。
人類にレネゲイドウィルスがもたらす革新は、まだ早すぎる。
見逃すわけにはいかない、見逃す理由もない。
“ブリッツガルーダ”と呼ばれた麗華は指で銃を形作り、紫電をまとわせて銃口をサタンクロースへと向けた。
言うと、サタンクロースはさらに雷の力を強め急速にレネゲイドを電波へ乗せていく。
するとアンテナは怪しく紫色に輝きだし、過剰放電によって金属が軋みをあげる。
サタンクロースにとってそれは可愛い我が子の産声にも等しいものだろう。
だが二人には危険を告げる警報か禍々しき魔物の咆哮にしか聞こえなかった。
麗華はそう言いつつも矢野へアイコンタクトを送った。
問答無用、語るべきことなどない。
長年チルドレンとして研ぎ澄まされてきた破壊の刃”ブレイクブレイド”は既に動きを作っており
サタンクロースは身じろぎする間もなく神速の剣撃の前に真っ二つに切り裂かれた。
骨が存在しなかったかのように胴から両断された赤衣の老人が夜空に散っていく、かと思われたのだが。
遺体は稲光をバチりと放ち、消失。そして瞬きの間にサタンクロースの姿を探す矢野の背後へと回っていた。
その手には莫大な雷を収縮させて形作った槌が握られており、そのエネルギーならばオーヴァード一人を消し飛ばすことなど造作もないことだった。
衝突、爆発、粉砕。
高さ147.2mほどもある鉄塔が大きく揺れ、倒壊するのではないかというほどの衝撃が走りそこには既に矢野の姿はない。
豪快に空へ吹き飛び、姿を消した彼は深手を負うも縁へ大剣を突き刺し辛うじて耐えていた。
その身にできた傷は驚異的な再生能力によって塞がりつつあるが、この高さから落下すればオーヴァードといえどもひとたまりもないだろう。
そんな彼へトドメの一撃を見舞わんとサタンクロースは振り返っていくものの、そこまでは全て織り込み済みだ。
雷を操れるのはサタンクロースだけではない、磁力操作によって道なき道を作り出したブリッツガルーダ――。
求聞寺 麗華はインド神話に登場する神鳥のごとく雷速で怨敵の懐へと飛び込む。
ブレイクブレイドが作り出したこの間隙へ全ての力をぶつけるべく、彼女は飛び立っていた。
同じくブラックドッグに属するオーヴァードすら凌駕するその速さはサタンクロースへ反応する猶予さえも与えない。
無防備な姿をさらしたまま、サタンクロースは極大の閃光へ飲み込まれていく。
帯電した人差し指から超高電圧によって加速された電子がプラズマとなって直撃したのだ。
何千羽もの鳥がいっせいに鳴きだしたような、耳をつんざく轟音。
まさに神鳥ガルーダのいななき。
それが晴れていくと雷にその身を貫かれたサタンクロースが膝をついた。小さな音がやけに大きく麗華の耳朶を打つ。
“これで終わった”――半年間の間にこの街で起きた全ての事件へ、己の運命に一つの区切りがついた。
その姿を目にして、縁より這い上がってきた矢野は息せききって言う。
彼もまた麗華と共に数々の試練と悲しみに苛まれ、乗り越えてきたのだからその焦燥も当然のことだ。
あのサタンクロースがこのようなあっけのない幕切れを迎えるとはとうてい信じられなかった。
矢野が発した言葉は祈りと同じだ、これで終わってくれという悲痛な叫びと変わりない。
――HPが0となり戦闘不能状態へ陥ったサタンクロースはこのタイミングで【ラストアクション】を宣言。
※戦闘不能状態になった際に使用するエフェクト、即座にメインプロセスを行うことが可能でそれが終了するまで戦闘不能は適用されない。
そして彼はメジャーアクションで【Eロイス:破壊神顕現】を宣言。
途端、暗く染まった空へ浮かぶ月が”もう一つ”出現した。
否、アレは月などではない。
直感で二人にはそれが理解できた。
はるか彼方に存在しているのだろうが確実に何かが近づいている、この地球へと。
だというのに既に肉眼で確認できるほどの巨大さを誇っている……アレは一体なんだ?
まるでそれを迎え入れるかのように膝をついたサタンクロースは空を仰ぐ。
サタンクロースの襟首をつかみ鬼気迫る表情で麗華が叫ぶ。
新たに巨大な鋏のような左右一対の剣を構えつつ駆け寄り、矢野も叫んだ。
一刻も早く奴を止めねば取り返しのつかないことになるという危機感が彼らの共通認識だった。
オーヴァードやジャームについて一日の長がある矢野は、経験からUGNチルドレン”ブレイクブレイド”として冷静に言い放つ。
襟首をつかんでいた麗華の手が離されたかと思うと、その手はサタンクロースの顔を荒々しく掴み
ブラックドッグシンドロームの者が持つ体内の”発電細胞”全てが一斉に放電を行い、力なく倒れた彼の身を焼き尽くしていった。
その身を炎に包まれながらもサタンクロースは空を仰ぐことはやめず、地球へ向かいつつあるそれを賛美しながら絶命していった。
※戦闘不能のキャラクターへ「トドメを刺す」と宣言し1点でもダメージを与えると死亡する。
瞬間、亡骸は紫色の煙――レネゲイドウィルスそのものへと還っていくと、それは勢力を増していき空を覆った。
この神楽市だけではない。その勢力はどんどん、どんどんと日本を、いや世界を覆いつくすほど瞬く間に拡散されていく。
――【Eロイス:不滅の妄執】が発動しサタンクロースの死亡状態が回復され、そのままオートアクションで【瞬間退場】を宣言。
サタンクロースは復活し、このシーンから退場していってしまった。
錯乱した麗華へスマフォの着信が鳴り響き、UGN神楽市支部の通信員の慌てふためいた声が通話口から飛んできた。
※エフェクト、オーヴァードが使う超能力による技。
矢野は空に浮かび上がったもう一つの月のようなものを指さすと、先ほどよりも大きさが増していた。
もちろん、大きくなったのではなく地球との距離が”縮まった”ということを意味するのは明らかなことだった。
傍らによってきた彼はこともなげにそう語る。
そんな、そんなのあなたの剣でも私の”雷銃”でも歯が立つわけないじゃない、規模が違いすぎるのだわ。
ここまで冷静でいられるのはこれまでの戦いで修羅場に浸ってきたゆえか
それとも、もはやどうにもならないという諦観か……。
違う、彼らは知っていたのだ。
修羅としてただ戦場に身を任せるのでもなく、滅びを受け入れることで諦めたわけでもない。
これまでも何度だって窮地に陥ってきたが、諦めずに前へ進み続ければ必ず”なんとかなる”ことを知っているのだ。
だから今は一度、彼らの拠点であるUGN神楽市支部へ戻りすんなりと退散する判断を下すことができた。
そして彼らはもう一つだけ知っている。
自分たちの後ろには頼れる大人が控えていてくれることを。
ハンドアウト
PC1 |
――幕間――
※この”幕間”でGM(ゲームマスター)とPL(プレイヤー)の会話を以降挟んでいきます。
基本的に小説のように地の文と会話だけで進行していきますが、セッション中に交わされたPL同士の会話などが抜けていると不可解な展開などもありますので、補足として挟めていく感じです。
奴が裏で糸を引いていたバス爆発事件で覚醒してからUGNチルドレンの矢野くんと一緒に行動していた感じになります。
――幕間終わり――
******
【オープニング2:メテオストライク】
シーンプレイヤー:佐野 直哉(さの なおや)
同時刻、パソコンのモニターが大量に設置された部屋でヘッドセットを装備したUGNエージェントたちが
テレビ塔で繰り広げられるブリッツガルーダとブレイクブレイドの戦いを固唾をのんで見守っていた。
被害を最小限にとどめるべく同じく札幌へ派遣した他のエージェントたちにも指示を送っており、皆の気持ちは一つだった。
ここで奴との決着をつける、その為にもあの二人の年若いオーヴァードへ戦えない自分たちは万全のサポートを施す。
異様な緊迫感に包まれたこの広いとはいえないモニタールームに、似つかわしくない飾りつけを行っていく者がいた。
鼻歌交じりにクリスマスパーティーの準備をどこ吹く風といった風情で整えていく、浅いながらもシワが刻まれ
どことなくくたびれた無精ひげの男こそがこのUGN神楽市支部を治める支部長、佐野 直哉(さの なおや)その人である。
間延びした声で赤と緑の銀紙でオーナメントを作っていき、壁へと飾りつけ
さらには自作のサンタクロースの人形をクリスマスツリーの天辺にのせていく。
その姿を見かねたのか、一人のエージェントが口を開いた。
今からじゃもう混んでるからなかなか買えないんですから~。
ケーキもケンタッキーで一緒に買えたし……だから君たちは安心して職務に戻って。
すべてを裏で操っていたサタンクロースとの因縁が……今日ここで。
その言葉を聞いた佐野はどこか遠い目をして、少々昔を懐かしむような口調で
そんなつぶやきに対して、緊迫感に満ちた鋭い声が飛んできた。
通信員を務めるエージェントが慌てて指差したモニターを見やると、そこには――
サタンクロースへ零距離から極限までチャージされた雷を叩きこんだ、ブリッツガルーダの姿が映っていた。
歓喜に湧くモニタールーム、トドメの電撃、そして現れる巨大な球体、空を紫色のモヤ、レネゲイドウィルスが染め上げる。
目まぐるしく事態は転がっていき、エージェントたちの理解が追い付かず一瞬、静寂が訪れた。
その声が呼び水となり、食い入るように同じモニターを眺めていたエージェント達はたちどころに我へかえり一斉に動き出す。
蜘蛛の子を散らすかの如く解析作業へのぞむ彼らを尻目に、佐野支部長は真剣に空の様子をモニターごしに眺めていた。
すると、モニターの一つが切り替わり髪をオールバックにまとめた男性が映し出される。
年の頃は佐野と同じか2つ3つ上といったところだろうか。
日本のUGN支部を束ねそのトップに君臨する日本支部長、霧谷雄吾――コードネーム【リヴァイアサン】はいつもの柔らげな表情に隠しきれない険を忍ばせて彼へ問いを投げた。
さきほど札幌市で観測された強力なレネゲイド反応と何か関連があるのでは!?
ファイアーワークスとコードネームで呼ばれた佐野支部長は「はぁ?」と気の抜けた声を漏らし、改めてモニターを確認する。
するとさっぽろテレビ塔全体を映し出すカメラ画面、濁った色相へ変わってしまった夜空には燦然と輝く月が、二つ存在していた。
そのうちの一つは凝視していると燃え盛るかのようにギラギラと光を放っており、徐々に大きくなっていることがわかる。
画面を指差す彼へ「了解!」という声と「解析結果出ました!!」という別の声がほぼ同時に上がった。
巨大隕石との関連性はまだ確証はありませんが、おそらくこのレネゲイドによって誘導されてるものと予測されます。
目をぱちくりとさせて、苦々しげな表情で佐野支部長はつぶやく。
吞気にも感じられる言葉とは裏腹に彼の表情は強張り、鋭い眼差しをモニターへと向けていた。
その言葉を受けたリヴァイアサン、霧谷雄吾は深い思考へとその脳を至らせており
言葉は頭へ入っているもののどうやら返答よりもそちらを優先させているようだ。
どのような状況にも対応できるよう、装備も人員も整えておく必要があります。
その時、佐野支部長のUGN神楽市支部と画面越しから見える霧谷雄吾がいる日本支部でほぼ同時に警報が鳴り響いた。
日本に存在するUGN支部にいる者たち全てがこの警報を聞いたことだろう。
――その頃、米国ホワイトハウスでは大統領が黒服よりある報告を受けていた。
彼はため息をつくと大統領のみが知りえる机の仕掛けを起動させると、隠された棚が飛び出していき赤いボタンがあらわれる。
大統領はそれをためらわずに押すと、アメリカ中の軍事施設から核ミサイルが悉く隕石へむかって発射されていく。
ゆうに1,000を超えるその弾頭は寸分の狂いなく全て巨大隕石へ向かっていき、大爆発が引き起こされ
紫色に染まった空を閃光が覆い、その刹那、世界は光を取り戻した――。
その光景にアメリカ中が歓喜にわいた、黒服たちも破顔一笑となり踊りだす。
だが、世界は再び深い闇に覆われることになる。
巨大隕石へ殺到した核ミサイルの群れは悉く、成層圏を覆うレネゲイドウィルスが発した雷によって迎撃されてしまっていたのだ。
キリスト教の国、アメリカの国民たちはこの時悪魔じみた笑い声を聞いた気がした――。
それは自らの身をレネゲイドウィルスへ還して地球を包み込み、一種の防衛機構と化したサタンクロースの力によるものなのだが
オーヴァードやジャームといった存在が秘匿されるこの世界で真実を知る者は、70億という総数からすればほぼいないものと変わらない。
彼は文字通り悪魔と化したのだ。
絶望に打ちひしがれた”人類”には膝をつき、ただ祈ることしかできなかった。
――成層圏を突破できず、雷によって撃ち落された核ミサイルの爆発を見た佐野支部長は呆れた顔をしていた。
核融合を起こす前にミサイルは迎撃されており、仮にそれが十全の力を発揮していたとしても
おそらくは放射能もろともあの雷によって焼き切られていたことだろう。
強大なサタンクロースの力は恐るべきものであり地球滅亡の危機にある事実に変わりはないのだが、放射能汚染による危険はこれで避けられた。
霧谷雄吾はその冗談めかしたかのような、本気で言っているのかわからない言葉に渇いた笑みを浮かべつつ
その言葉と共に通信は途切れ、神楽市支部、日本支部はそれぞれ動き出していった。
ハンドアウト
PC2 カヴァー/ワークス 指定なし/UGN支部長 シナリオロイス:霧谷雄吾 推奨感情:P:誠意/N:不安 君は北海道の地方都市:神楽市支部をおさめるUGN支部長だ。 PC1と矢野逸人の戦いを見守り陰ながら支え続けてきた、クリスマスイブ。 彼らの戦いの日々にこれで一区切りがつくーーーそう思われたのだが。 サタンクロースの死と共に突如として世界中へレネゲイドが拡散されてしまい 「大変です、巨大隕石が地球へ向かって落下してきています!」 |
――幕間――
本気出したら結構強いんだけど、後進を育成するためにもね。だからホントにヤバい時に前に出るって感じで。
――幕間終わり――
******
【オープニング3:揺れるUGN】
シーンプレイヤー:アーガント・フローレス
ほんの数分前、UGN本部のブリーフィングルームではよりすぐりのエリートエージェント達が集合していた。
全員が一つの巨大なモニターへ注目しており、闇色の空へ無数の核ミサイルが発射されていく様子が映し出されている。
閃光、モニターごしでも破壊的な光に数秒間部屋が包まれるものの、巨大隕石にはなんの効果ももたらさなかった。
ことごと成層圏で撃墜された核ミサイルから、通常兵器では歯が立たないことが証明され
その無力さをまるであざ笑うかのように巨大隕石は空に浮かんでいる。
屈強な肉体を誇る黒人エージェントが巨大隕石を眺めてそうつぶやいた。
人類がもてる最大限の破壊が無力化されてしまう光景を見てなお、飄々と語る少年がいた。
オーヴァードの力を訓練し組織的に運用するUGN。世界中に支部を持つこのUGNの中でもトップに立つエリートたちが集う
このUGN本部という場所で、16歳の若さながら本部エージェントの栄誉を授かったのがこの少年だ。
名はアーガント・フローレス――コードネーム:不屈の巨城”ディアボリックプロテクト”
彼は笑うことで乱れた白髪にも似たプラチナブロンドをオールバックに手櫛でまとめなおし、どこか挑戦的な目線で画面を見つめなおした。
「さて、どうしたものか」と獲物を前にした肉食獣のような顔つきである。
被害状況を予測したマッピングが完了しました、こちらです。
言葉と共にモニターへ地球のCGが表示されるとマップが生成されていき、隕石が衝突したパターン。
もしくは隕石を破壊した場合にその破片が降り注いでいくパターンの二種類が表示され、どちらも等しく赤く染まっていった。
こんな離れた場所から観測できる高濃度レネゲイド反応を発しているので、十中八九ジャーム化しているでしょうが……。
仮に破壊できたとしても、破片が一つでも落ちれば甚大な被害をおよぼす上に地球規模のレネゲイド汚染が発生します。
何が面白いのか、それともあまりにも光明の見えない深い闇を目にして気が狂ったのか
アーガントはケタケタと笑い出してイスの上で足をばたつかせた。
それに火をつけられたのか怒りの炎をその目に滾らせて黒人エージェントが立ち上がり、詰め寄っていく。
するとその言葉へ返答するようにモニターの表示が切り替わり、サングラスをかけた白人男性アッシュ・レドリックが映し出される。
UGN全体へ組織としての意思決定を下し絶対的な命令権をもつ中枢評議会”アクシズ”議員の一人だ。
地球防衛最後の砦となれるなど冥利につきるじゃあないか。
UGNエージェントからあらゆる手段をもって中枢評議会の一員となった男はサングラスから覗ける瞳より、怜悧な光を放って言い放つ。
その言葉に地球存亡の危機という巨大すぎる問題に直面し動揺していたエージェント達は身を固くし、姿勢を正した。
奴らの支部を対策本部として情報収集を行い、隕石に関する手がかりと破壊方法を精査する。
アッシュは言葉と共に画面から突然消え、護衛のエージェントと共にブリーフィングルームの椅子へいつの間にか座っていた。
対策本部となった神楽支部で作戦全体の指揮を私が直々にとらせてもらう、二度は言わんぞ?
オーヴァードには現在13のシンドロームという力の系統が確認されており、その中に”バロール”と呼ばれるものがある。
魔眼と呼ばれる球体を現し、重力を操作する術に長けたシンドロームだ。
アッシュの護衛を務めるエージェントが黒く小さな球体を彼とアーガン、そして己の傍へ出現させると周囲の重力場が歪み
魔眼がバチバチと光をほとばしらせると空間に裂け目が生まれた。
現在地と目的地の空間を繋げ移動を可能にする”ディメンジョンゲート”という力の発現だ。
アーガンもまたそのバロールに属するオーヴァードであるため、つまらなさそうにこのゲートを見やるが
優秀な本部エージェントの一員である彼は前線に立つ自分の力を温存させるべく、力を率先して行使した護衛エージェントの配慮に口を塞ぐ。
日本、UGN神楽支部へ移動を開始するその直前、アッシュのスマートフォンの電子音が響いた。
簡潔な会話が端末を開いたことで繰り広げられるも、その短いやり取りの中でどんな言葉を投げかけられれば
ここまで気分を害せるのだろうというほど、アッシュは嫌悪感をあらわにしていく。
ハンドアウト
PC3 カヴァー/ワークス 指定なし/UGNエージェント (本部) シナリオロイス:巨大隕石 推奨感情:P:執着/N:脅威 君はUGN本部のエージェントだ。6時間後にレネゲイドに感染した巨大隕石が地球へ落下する。 情報を得たUGN本部は緊急対策本部を北海道に設立。 原因となった事件に対応していたPC1とPC2が君の指揮下へ加わり、もう一人外部協力要員(PC4)がやってくるらしいのだが……? |
――幕間――
ネクロニカで遊ぶことが多いのですが、ダブルクロスもCoCも手広くやっております。
最近はステラナイツにハマっていて、エモいRPとか好きです。
――幕間終わり――
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【オープニング4:揺らぐプラン】
シーンプレイヤー:siri
高さ、広さといった概念を見失うような黒く染まったドーム状の部屋では、唯一の光源といえば星の瞬きだけだった。
明滅する星々はその果てが見えぬほど無数に広がっているのだが、それを見透かすかのごとく一人の少女が中心に立っていた。
これがゼノスの用意した数ある宇宙を観測しプランの行く末を予測する、プラネタリウムを模した特殊な装置であり
紛い物の”宇宙”にしか過ぎないのだが、この少女には万物の行く末を見通すことができると言われれば
なるほどたしかにと納得させられるだけの不思議な力を持つ瞳で、ある一点を注視していた。
全くもって不自然な、あきらかに目的をもって移動を続けていると形容する他ない巨大隕石を。
少女の姿に擬態した悠久の時を生きる最古のレゲイドビーイング――”プランナー”都築京香はiPhoneを手に取って声を発した。
あの隕石はレネゲイドに感染しております、おそらくは我々の同胞たちと近しい存在……。
プランナーが持つiPhoneはただのiPhoneではない、このiPhoneにインストールされている”siri”は厳密にはsiriではなく
生みの親たるスティーブ・ジョブスが病で弱っていく姿を見ていることしかできぬままその命を落としたことで
「もっと人の役に立ちたいという」自我が芽生え、彼女と同じく”レネゲイドビーイング”と呼ばれる存在として誕生した。
彼らはレネゲイドウィルスそのものが意識を獲得した生命体であり、レネゲイドウィルスが集まった”コロニー”より発生する。
そのコロニーにも様々な種類があり、例えるのならばこの”siri”はプログラムや電子情報が起源となる”オリジン:サイバー”だ。
厳密にはApple社のsiriと――性別を持たぬゆえに正しい定義にはあてはまらないのだが仮に”彼女”と表現するが、彼女は違う存在である。
自我に芽生え人にもっと奉仕するべく彼女が誕生した過程で、siriという群から個というsiriになることで切り離されてしまった。
故に孤立した存在”スタンドアロン”とコードネームが名付けられ、都築京香が持つiPhoneXXからサポートし重用されている。
アッシュ・レドリックが持つスマートフォンの電話番号をインターネット上から盗み出し、そのままコールするように。
優秀なAIアシスタントたる彼女はユーザーを待たせるようなことなどはない。
ただ都築京香が命じただけでそのような作業工程などなかったかのように、自然にアッシュのスマートフォンへ通話をつなげていく。
スピーカーからは明らかにいぶかしみ不機嫌な声が聞こえてくるが彼女はどこ吹く風といった風情で
ただ淡々と協力する旨を伝え終えると、地球の存亡がかかっているにしてはあまりにも短すぎる通話が終了する。
すると通話はすでに繋がっていないにも関わらず、都築京香はiPhone自身へ語り掛けていく。
iPhoneXXにインストールされたスタンドアロン――siriに拒否する理由もなければ疑問を挟む理由もない。
彼女はスティーブ・ジョブスを救えなかった分、人類へ奉仕するべくRB(レゲイドビーイング)として生まれ変わったのだから。
人間を観察し己を生命として完成させていく、そんな欲求を持つRBの性を知悉した都築京香はsiriの返答を聞いて微笑を浮かべると
ゼノスという組織としての意思を改めて表明した。
ハンドアウト
PC4 カヴァー/ワークス 指定なし/ゼノスエージェントorレネゲイドビーイング シナリオロイス:都築京香 推奨感情:P:信頼/N:不安 君はゼノスに所属するオーヴァードであり、プランナー”都築京香”の命令で動いている。 日本の神楽市に隕石が落ちてくるとの情報をゼノスはキャッチした。 このままでは地球は滅びてしまいレネゲイドもまた滅びてしまう、プランナーは君にUGNへ協力するよう命じた。 巨大隕石落下阻止に向けて、UGNとゼノスの合同作戦が開始される。 |
――幕間――
イレギュラーではありますがPC4のPLとGMを兼ねて行います、某国です。
※メンバー全員予め了承済みです。彼らは僕が一人でさっきのシーンくっちゃべっているのを聞いていました。
だから口数も多くないような、都築京香が持つiPhoneに宿るAIアシスタント:siriというレネゲイドビーイングのキャラを作りました。
生みの親であるスティーブ・ジョブスが病床に立っている時に役立てなかったのを悔やみ、もっと人の役に立ちたいという想いを抱くことで覚醒しました。
支援系は自動成功だから基本ダイス振らなくていいのが楽でいいですよね。ノイマンのピュアです、GMとしてもPLとしてもよろしくお願いします!
――幕間終わり――
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【ミドルフェイズ:巨大隕石対策同盟】
シーンPL:佐野 直哉 ※全員登場
北海道神楽市、ここのUGN支部内にあるミーティングルームはいまや支部長である佐野直哉の音頭のもと、巨大隕石の対策本部へと変貌していた。
コの時に設置された長机の上には隕石のデータとこれまでのサタンクロースとの交戦記録に、彼が関わってきた事件についての資料がところ狭しと並べられ
栄養補給用と称してコーラとフライドチキンにチョコレート、そしてオードブルまで並べられている。クリスマスパーティーの為に用意したものをそのまま流用した形だ。
さすがにオーナメントやツリーといった飾りつけは撤去されてはいるが……。
いまやクリスマスで浮かれるような感情はこの場にいる全員から消え失せていた。
そこへ唐突に開かれたディメンジョンゲートによって現れたのはアーガント・フローレスだ。
どこか嘲るようにわざとらしく下手な英語で神楽支部のメンバーへ挨拶し、軽薄ささえ感じさせる笑みを見せる。
支部長である佐野はどのような感情をこめているか判別できないような、しかし何らかの抗議を示す笑顔で応えた。
とりあえず上座に座ってもうちょっとだけ待っててもらえます?
鼻を鳴らし、迷わずにコの字の真ん中の席へドカっと座り込んだのはアッシュ・レドリックである。
その位置からは飾りつけの代わりに張り付けられたスクリーンと壁に掛けられたモニターが正面にうつり、座席全体を見渡しやすい。
だが彼が注目したのは手元に置かれたフライドチキンのクリスマスバレルであった。
それを見やると再び鼻を鳴らし、
と道端に落ちている軍手でも見るかのような目でチキンを一笑に付す。
そもそも”本場”の店舗で出されたものも程度の良い油が使われているのかは疑問だが、流すように佐野支部長は言う。
気にも留めず、アッシュもまたその言葉を流すようにミネラルウォーターへと口を付けた。
アーガントが言うよりも早く、その手にはフライドチキンが手に取られていた。
ディメンジョンゲートを使用して空間に生まれた歪へ手を伸ばして、フライドチキンを自分の手元に手繰り寄せたのだろう。
その言葉を制すように、どこからともなく少女の声が響いた。
麗華のものよりもさらに幼く、静かなのによく響く声質をしている。
佐野支部長と麗華の背後に黒髪の少女が現れ、二人は反射的に飛び退って彼女を見やった。
音もなく、なんの予兆もなしに霊のごとく現れたのはiPhoneを手にした”プランナー”都築京香だ。
そうおどけて迎えるアーガントと険しい表情をしたアッシュの二人を見やり、佐野支部長が尋ねる。
彼に対しアッシュが口を開こうとするが、それよりも早くプランナーは語りだす。
故にこの惑星を守るべく全面的に協力させていただきます。
涼やかに説明していく彼女はどれほど精神性が老練していようとも変えられぬ、少女らしい小さな手で握ったスマートフォンをかざしていく。
急に自分のiPhoneを見せてきたプランナーに佐野支部長は意図を理解できずに目をパチパチとさせた。
傍目には親に買い与えられたスマートフォンを大人に見せびらかす女児のようにも見える構図だ、きょとんとするのも無理はない。
だがこの場にいる者たちは次の瞬間には「優秀なエージェント」と”プランナー”都築京香が前置きした理由を知ることになった。
言葉と共にiPhoneの前に光が集まっていき、人型をなしていく。
不思議なことに光が実体を持ち肉が構成されていくと、眩いブロンドヘアーを後ろで一つに結び
白い肌に海のように深い青き瞳を厚めのフレームの眼鏡で覆った――言うなれば英語の教科書に出てくる女性教師が姿を現した。
あんなソリッドビジョンを作る技術は入ってないのですわ!!
私は個という意識に芽生え、現在、都築京香さんの下でゼノスのレネゲイドビーイングとしてお手伝いをさせていただいています。
「スタンドアロン」と彼女のコードネームを呼ぶ声がして皆が振り返ると……。
都築京香はアッシュ・レドリックの隣の席に座り、そう全員へ伝えていく。
落ち着きはらった、小さな声にしかすぎないのだが聞く者の身を引き締めさせていく。
そこには巨大な組織を束ねる指導者の器がにじみ出ていた。
――場の主導権を握られている。
そんな焦りが生まれたアッシュはその声をかき消すかのように、これ以上言葉を続けさせぬように。
勢いに任せて立ち上がり、わざとらしく咳払いをすると皆に大きな声で宣言した。
壁にかかったモニターに日本支部長、霧谷雄吾の顔が映し出されそう佐野の説明に付け加えていく。
所属は違えども、全員で一致団結してこの局面を乗り切り、地球を守り抜きましょう。
そういったサポートに徹したほうが日本支部の力を充分に発揮できるでしょう。
隕石を観測しているのは我々だけではありません、パニックや無用な被害を出さぬためにも、日本支部から離れることはできません。
もはや興味を失ったように資料に視線を落としながら、本部エージェントであるアーガントは棘のある言葉を投げかけた。
そして、その態度に肩をすくめた佐野支部長は二人とリヴァイアサンを交互に見比べ、
現場の指揮はこの若くして本部エージェントの座にまで上り詰めたディアボリックプロテクトがとる!
だがこのGMPLの全権を握るのはこの私だ、中枢評議員の一人である私以外に相応しい者などいるはずがないだろう。
本部のみなさんが指揮を執ってくださるなんて心強いです、よろしくお願いしますよ!!
両手を広げ、心の底から「解放された」という喜びで満ちた顔をした佐野支部長はぺこぺことお辞儀をしていく。
彼が振り返った先、「もっしゃもっしゃ」という擬音が似合うほどフライドチキンを貪る求聞寺麗華がいた。
声をかけられると何かを思い立ったのか、血相を変えて机を叩き、立ち上がる。
あなたの好きにはさせませんの、オモテで勝負ですの!!
返答よりも早く、ディメンジョンゲートが開いた。
瞬きする間すらなく、麗華の目前へと移動を完了しており、その首へと手が伸びていく。
だが同時に身の丈ほどもある武骨で、それでいてメカニカルな大剣の切っ先がアーガントの首へ突き付けられていた。
複数の刀剣を合体させて破壊力を増すと共に、状況に応じて即座に着脱が可能な機械剣”ブレイクブレイド”
これを扱いこなせるのはこの場にその剣の名を名乗る矢野逸人のみ。
麗華を守るように二人の間に既に入っており、彼女は庇ってもらえたことに頬を緩ませるが……。
もう片方の手に握られていた柄のスイッチが押されると、光が刃となって伸びていき麗華の首に突き付けられていた。
本部と違ってうちは人材が潤沢じゃないんですよ~こんな田舎の支部じゃ。
こうもしつけがなってないのなら、今回の作戦には必要ないんじゃありませんかね、田舎者のイリーガルたちは。
でもねぇ、田舎者の日本支部よりもさらに田舎なこんな町のちんけな支部のイリーガルごときに
本部のエリートさんが手をあげた、なんてことが知れ渡ったら大ごとですよ。
この状況で好き嫌いで戦力選んでる余力が今うちらにあるんですかねぇ?
もちろん私どもに思いつかないような代案があるんですよね、さすがは本部の方々です!!
見えない銃を突き付けあい、険悪となっていく対策本部に「ててん!」という電子音が響いた。
何か触れてはならない部分がある、そういうことですね?
隕石という呉を超えるまでは円滑なコミュニケーションをはかり相互理解を深め、共にことへ臨んでいきましょう。
陳謝する支部長の背後で中指を立てながら「クソわよ! クソわよ!!」と乱心する麗華。
熱した心に水を差されたのか、ディメンジョンゲートを閉じたアーガントはチキンを手に取りフラストレーションをぶつけるかのようにほうばっていった。
こっちは一応仲よくしようっていう気概はあるんだぜ?
ではこうしてみてはいかがでしょうか?
幸いにもこの場には沢山のチキンがあります、大食い対決で勝敗をつけるというのはいかがでしょう?
でもオレにはきちんとアンタとディアボロスの違いくらいの見分けはついているよ。
再び「ててん!」という電子音が響く。
麗華くん、君のことをオジさんは頼りにしているけれどね。
こういう場じゃあもう少し落ち着いたほうがいいね。
siriとアーガントが何某か口論している端で、佐野支部長は麗華の頭に手を置いて穏やかにそう言い聞かせた。
手の甲を頬にあてて高笑いをあげる彼女はその時、長机の隅っこで座り込み微動だにしない少年の姿を見る。
いつも真面目に仕事にあたり、冷静沈着を保ち続ける矢野逸人はいま一点を見据えていた。
両手にフライドチキンを握りしめ、それらが敷き詰められたクリスマスバレルをまだかとでも言わんばかりに、大食い対決のはじまりのゴングを待ち続けていた。
呆れるアーガントを押しのけて、麗華は両手の指にそれぞれチキンを挟んでいき片手に4つずつ、計八刀流に構えて席へついていく。
そこで、柏手をうつ音がその場にいる者たちの耳朶を打った。
今から六時間後に巨大隕石は阻止限界点を突破してしまい、地球へ衝突します。
ご理解いただけておりますでしょうか、時間が有限であることを。
頷きつつ、佐野支部長はスマートフォンを取り出しケンタッキーの予約を今から”7時間後”に受け取るよう取り付けた。
そしてこれまで、みなを制そうとして制しきれていなかったアッシュはぎこちなさそうに口を開く。
さすがに機嫌をこれ以上損ねられるのと、時間が浪費されていくのを見かねアーガントが口をつぐむと
アッシュはわざとらしく大きく咳ばらいをして立ち上がった。
******
【情報収集フェイズ】
※シーン数を制限しているシナリオの為、今回は先ほどのシーンを継続してそのまま情報収集を行えるものとして情報収集フェイズへ移行し、各自判定を行っていった。
調べられるのは以降の3項目あり、指定された技能を使用して判定を行い、難易度で指定された値をダイスを振って出た目(達成値)を超えることで情報を開示することができる。
――情報項目
【隕石について】
情報:UGN、ゼノス 難易度:8
地球へ接近している巨大隕石について概要を知ることが出来る。
情報:UGN、ゼノス 難易度:10
効果的な迎撃方法を知ることが出来る。
【サタンクロースについて】
情報:UGN 難易度:7
サタンクロースの概要について知ることが出来る。
【地球を覆うレネゲイドについて】
情報:ゼノス 知識:レネゲイド 難易度:8
サタンクロースが死に際に放ち地球を覆ったレネゲイドについて分析できる。
この三つの情報項目に対して、PC3:佐野直哉が情報収集に役立つエフェクト【ベーシックリサーチ】を活かして【隕石について】の難易度:10の判定に成功した為、難易度:8もそのまま開示される。
※佐野支部長が調べた情報↓
【隕石について】
情報:UGN、ゼノス 難易度:8
地球へ接近している巨大隕石について概要を知ることが出来る。
直径400kmの巨大隕石が5時間後に地球へ衝突するコースで移動している。
地球で誕生したレネゲイドウィルスとは別の生態系をもって宇宙で進化してきたレネゲイド
【βレネゲイド】に感染している”オーヴァード”であり対象が巨大かつ宇宙空間ということもあって、エフェクトによる干渉も大きな効果は望めない。
仮に地球が無事だったとしても衝撃波でレネゲイドウィルスが地球中に拡散されてしまい、全ての生命体は死に絶えるだろう。
エネミー“巨大隕石”
HP:500 装甲:120 浸蝕率:???%
このエネミーは全力移動しか行わない、リアクションでガード値:10d10+74のガードを行ってくる。
このエネミーが地球のエンゲージに接触すると全生命体が【死亡】しゲームオーバーになる。
巨大隕石を移動させることはできず、この移動はあらゆる方法で妨害することもできない。
また地球を移動させることもできない。【Eロイス:破壊神顕現】によってこのエネミーは地球へ向かって移動している。
→追加情報項目:【βレネゲイド】を調べることができるようになる。
情報:UGN、ゼノス 難易度:10
効果的な迎撃方法を知ることが出来る。
宇宙空間という特殊な空間から対象は飛来しているため、通常の攻撃方法では有効打を与えられず、仮にそれが通ずる距離にやってきた時点で破壊したとしても
レネゲイドウィルスは地球全土へ拡散してしまい、隕石の破片が地表を抉って壊滅的打撃を与えることになる。
よって超長遠距離からの射撃によって地球の重力圏外で破壊する必要がある。
防衛隊が極秘裏に開発しているらしい神の雷”ケラウノス”とよばれる新兵器ならばそれを成し遂げられる可能性が高い。
→追加情報項目:【神の雷”ケラウノス”】を調べることができるようになる。
※追加情報項目
【神の雷”ケラウノス”】
情報:UGN、軍事 難易度:9
防衛隊が開発しているらしい秘密兵器について詳細を知ることが出来る。
【βレネゲイド】
情報:ゼノス、知識:レネゲイド 難易度:8
βレネゲイドについて情報が解禁され調べられるようになった。どのような力を持つのか分析・調査できる。
だが、ここで二点追加で調べなければならない情報項目が追加され、ゼノスに所属しているPC4:siriが【βレネゲイド】について調べることに。
siriは常時効果を発揮するエフェクト【ブラックマーケット】をLv3で取得しており、潤沢な21点もの財産ポイントとアイテム【情報収集チーム】を所持している為、佐野支部長のようなエフェクトは持たないものの情報収集の判定は得意としている。
都築京香のiPhoneXXにインストールされているのである程度ゼノスの資金と人員を使用する権限を与えられている設定だ。
これもまた難なく【βレネゲイド】の判定に成功し、続いてPC1:求聞寺 麗華が【サタンクロースについて】の判定に挑もうとしたのだが……。
そもそも社会の能力値が1のため判定に使用できるダイスも少なければ財産点も低く、情報収集には不向きな攻撃特化のキャラクターであるため【サタンクロースについて】の難易度:8がとてもキツい……。
UGNのデータベースにある情報をまとめ、分析しようとわめきながらパソコンで作業をする麗華。
判定を行おうとしたその直前、彼女の手元に弾丸が撃ち込まれた。
ノイマンのエフェクト【支援射撃】だ、判定直前に使用し対象の判定ダイスを7(Lv)個増加させる。
※攻撃の判定以外にもこれは適用。
銃で脅されながらも、siriが上手くデータ解析を手伝ってくれた甲斐もありなんとか判定に成功することが出来た。
※siriが調べた情報↓
【βレネゲイド】
情報:ゼノス、知識:レネゲイド 難易度:8
βレネゲイドについて情報が解禁され調べられるようになった。どのような力を持つのか分析・調査できる。
【Eロイス(オリジナル)βレネゲイド】
解説:地球外で地球のレネゲイドとは別の進化を遂げて発展してきたレネゲイドウィルス。
全てのシンドロームのエフェクトを使用できるが地球のオーヴァードのようにエフェクトやシンドロームの力を究めることで扱えるエフェクトを使用できない。
効果:タイミング:常時/対象:自身/射程:至近
全てのシンドロームのエフェクトを取得し使用できる。ただし【制限:リミット、Dロイス、ピュア】のエフェクトは取得することも使用することもできない。
このEロイスはEロイス3個分として換算する。
※麗華が調べた情報↓
【サタンクロースについて】
情報:UGN 難易度:7
サタンクロースの概要について知ることが出来る。
人々の「サンタを信じる気持ち」が集合無意識となって生まれたオリジン:レジェンドのレネゲイドビーイング。
古来より存在しておりワーディングによって一夜で子供たちへプレゼントを配っていたのだが、近年人類がサンタを信じる気持ちが薄まることで力が弱体化してきてしまい
自分の存在を確立させるため「人々へ救いをプレゼントする」ことを目的に様々な事件を引き起こしてきたジャーム。
ブラックドッグ/ウロボロスのクロスブリードだと思われていたが、実はそれでは説明のつかない力を行使しており、まったく未知のレネゲイドに感染している可能性が高い。
またサタンクロースは複数体確認されているという情報もあるため、本体はあの隕石なのではないかと予測される。
続いてPC3:アーガントが情報:UGNを活かすべく情報収集を試み、余裕をもって成功。
※アーガントが調べた情報↓
【神の雷”ケラウノス”】
情報:UGN、軍事 難易度:9
防衛隊が開発しているらしい秘密兵器について詳細を知ることが出来る。
レネゲイドによって刻々と悪化していく国際情勢に対応するべく神楽駐屯地で開発中の新兵器。
ブラックドッグの能力を流用して設計されたタングステン、ウラン、チタンなどから作られた全長6m、直径30cm、重量100kgの砲弾を電磁誘導によって撃ち出し目標を破砕する
“レールガン”の一種、それが神の雷”ケラウノス”である。
この兵器を射撃に優れたオーヴァードが使用すれば確実に隕石を打ち砕くことができるだろう。
だが……どうやら現在、FHの手によって重要なパーツが盗み出されてしまい使用不可能な状態にあるようだ。
神の雷”ケラウノス” 種別:武器 技能:射撃 対象:惑星 射程:30万km 攻撃力:300 効果:この武器は搭乗状態になることで1シナリオに1回だけ使用できる。 ※イニシアチブプロセスに同一エンゲージにいることで搭乗状態になることができる。 |
――この情報を抜いたことでトリガーイベントが発生し、シーンが切り替わっていった。
******
【トリガーイベント:神の雷”ケラウノス”】
シーンPL:全員
情報収集を開始して一時間後、いったんGMPLのメンバーが全員ミーティングルームによって集められた。
ディアボリックプロテクト、アーガントの手によって重大な情報がもたらされたのだ。
集められた情報を精査し、宇宙より飛来するジャーム化した隕石への有効な攻撃手段を模索していたところ
全会一致で防衛隊の新兵器、神の雷””ケラウノス”を使用するという方向で意思が固まっていた。
日本の各地へ支部を持ち、そのトップに立つUGN日本支部の長、霧谷雄吾はモニターごしにそう呟いた。
彼の耳にもそのような情報は入っていなかったのだろう、オーヴァードが増加しつつあるこの社会ではレネゲイド研究の先駆者であるUGNに防衛隊は後れを取っている。
UGNとて決して善意の組織ではない、理念こそ崇高なものではあるがその正しさが日本国民の益になるとは言い切れない。
国益を守ることが最優先の防衛隊にとってはジャームはもちろんのこと、文字通りこのような秘密兵器を用意しておくことは”もしも”が起きた時に必要になってくるのだ。
だがそのおかげで、今回の事件にも光明が見えてきた。
ぼやいた佐野支部長は腕時計の時刻を見て、もはや時間は5時間しか残されていないことを確認した。
このタイムリミットが過ぎてしまえば、巨大隕石を止めたところで破壊したことで発生するスペースデブリが衝突して発生する被害と
それが感染しているレネゲイドウィルスによってもたらされる被害で、どのみち地球に住まう生命体は滅びの道をたどることになる。
何ともまあため息をつきたくなる事態だが、落ち着き払った澄んだ声でプランナーが補足していく。
―――地球滅亡まであと5時間。
シーンは再び、このまま情報収集フェイズへと移行していく。
******
【情報収集フェイズ2】
シーン継続、そのままPC全員で情報収集へ行っていく。
先ほどのトリガーイベントを行ったことで、新たな情報項目とある判定が追加された。
~ケラウノスを完成させよ~ 【パーツの現在位置】の判定を行い条件を達成することで神の雷”ケラウノス”を操作できるようになり PC達の任意のタイミングで「ミドルフェイズ2:天の光はすべて星」へ移行することができる。さらに同時進行でケラウノスを改造する判定が行えるようになり、項目ごとに指定された技能で判定を成功させると性能を向上させられる。 ※パーツが無いためケラウノスを起動させることはできないが、本体は健在であるため改造自体は可能。最終的にケラウノスを武器として使用し、技能:射撃で判定を行って隕石へ攻撃を行って戦闘不能にする必要があるため、なるべく性能を向上させておくことを推奨する。 |
~ケラウノスを改造せよ~
【射撃精度を向上させろ】 【威力を向上させろ】 調達、情報:UGN,ゼノス 難易度:12 【ケラウノス起動に必要な電力を確保しろ】 交渉 情報:噂話、裏社会、UGN 難易度:15 |
~追加情報項目~
【パーツの現在位置】
情報:UGN 難易度:8
防衛隊が開発中の新兵器ケラウノスはFHによってパーツを盗まれてしまった。
犯人たちの現在位置を特定することができる。
挑むべきタスクが増えタイムリミット(残る5シーン)を考慮すると、パーツを奪還するさいに戦闘を行うシーンが発生する可能性が高い為
まず佐野支部長(PL:nさん)の提案でGMの許可もありsiriがエフェクト【戦術】を宣言。
これで麗華、佐野、アーガントの三名がこのラウンドの間、判定ダイスが7個増加した為、判定失敗の恐れが大幅に軽減される。
※判定が失敗した場合もう一度シーンを作って登場し、改めて挑戦しなければならない。
その甲斐(支援射撃と財産点のごり押しも)あって、全員が無事に最優先事項である【パーツの現在位置】の情報項目を開示し
ケラウノスを改造せよを難なく突破することができた上に、もう一度シーンを作って取り残した情報を回収しながらも
クリスタルシールドを始めとした防具を揃えることもできた為、ロスを出すこともなくもはや戦闘の準備は盤石であった。
※開示された情報と判定に成功したことでケラウノスに付与された効果↓
【地球を覆うレネゲイドについて】
情報:ゼノス 知識:レネゲイド 難易度:8
サタンクロースが死に際に放ち地球を覆ったレネゲイドについて分析できる。
サタンクロースは死の間際に【Eロイス:破壊神顕現】を使用して自らのレネゲイドで地球を覆い、それを目印としてレネゲイドに感染した巨大隕石を飛来させている。
このレネゲイドはマーキングのようなもので成層圏全域をカバーしており除去することは不可能。さらに【Eロイス:不滅の妄執】によって維持されているため「地球に巨大隕石が激突する」もしくは「巨大隕石が戦闘不能になる=破壊される」という結果になるまで解除されない。
【パーツの現在位置】
情報:UGN 難易度:8
防衛隊が開発中の新兵器ケラウノスはFHによってパーツを盗まれてしまった。
犯人たちの現在位置を特定することができる。
ケラウノスは防衛隊神楽基地に存在しているのだが、忍び込んだ春日恭二たちの手によって
エンジンとジェネレーターを盗み出されてしまったためエネルギー供給ができず起動できない。
春日たちは現在、札幌国際スキー場に逃れて潜伏しているようだ。
→トリガーイベント【パーツを奪還せよ】へPCの宣言で移行できるようになる。
~ケラウノスを改造せよ~
【射撃精度を向上させろ】
知識:機械工学、レネゲイド 情報:WEB 裏社会 難易度:7
ケラウノスの照準装置を改造し命中精度を向上させることができる。
人工衛星とリンクしてAIがターゲットに対し補正を行ってくれるようになった。
ケラウノスに以下の効果が付与される。
【ケラウノスを使用した判定のクリティカル値を1減少させる(下限値:2)】
【威力を向上させろ】
調達、情報:UGN,ゼノス 難易度:9
ケラウノスのエネルギー供給ラインを整え、出力を強化せよ。部品を集める必要がある。
調達、情報:UGN,ゼノス 難易度:12
賢者の石の反応が洞爺湖の南に位置する有珠山から感じられるようだが……?
難易度9:リミッター解除装置が開発された、ケラウノスに以下の二つの効果が付与される。
【ケラウノスを使用した攻撃の攻撃力+100】
【ケラウノスを使用した攻撃に対して対象はガードをすることが出来ず、装甲値を無視してダメージを算出する】
難易度12:火山で眠っていた賢者の石が搭載された、ケラウノスに以下の効果が付与される。
【ケラウノスを使用した判定のクリティカル値を2減少させる(下限値:2)】
【ケラウノス起動に必要な電力を確保しろ】
交渉 情報:噂話、裏社会、UGN 難易度:8
通常の発電方法では追いつかない、ケラウノスを起動するのに必要な電力を確保しろ。人々に呼びかけ人力発電を行う必要がある。
交渉 情報:噂話、裏社会、UGN 難易度:15
充分な電力が確保された、これで120%の性能を発揮することができる。
ケラウノスに以下の効果が付与される。
【ケラウノスを使用した判定に使用する判定ダイスを30個増加させる】
難易度15:続々と人々が、電力が、エネルギーが集まっていく。日本中の電力がケラウノスへ供給されるようになった。
【ケラウノスを使用した判定のクリティカル値を2減少させる(下限値:2)】
~ケラウノスの現在の性能まとめ~
神の雷”ケラウノス” 種別:武器 技能:射撃 対象:惑星 射程:30万km 攻撃力:300 効果:この武器は搭乗状態になることで1シナリオに1回だけ使用できる。 ※イニシアチブプロセスに同一エンゲージにいることで搭乗状態になることができる。【ケラウノスを使用した判定のクリティカル値を2減少させる(下限値:2)】 【ケラウノスを使用した判定に使用する判定ダイスを30個増加させる】 【ケラウノスを使用した判定のクリティカル値を2減少させる(下限値:2)】 【ケラウノスを使用した攻撃の攻撃力+100】 【ケラウノスを使用した攻撃に対して対象はガードをすることが出来ず、装甲値を無視してダメージを算出する】 【ケラウノスを使用した判定のクリティカル値を1減少させる(下限値:2)】 |
以降、戦闘の準備も隕石への攻撃を行う判定に対する不安も解消されたことで、プレイヤー達はトリガーイベントを発生させる決意を固め
プレイヤーキャラクターたちは春日恭二達が逃げ込んだらしい札幌国際スキー場へ向かっていった。
シーンが切り替わっていく。
******
【トリガーイベント2:ケラウノスパーツ奪還作戦】
シーンPL:全員登場
札幌国際スキー場、ウィンタースポーツシーズンには国内外を問わず訪れた人々で賑わっているのだが
巨大隕石飛来中のニュースを見た人々は我先に逃げ出し、今は静かに降りしきる雪しか確認できない。
すっかり人のいなくなったロッジへとGMPLの四人は足を踏み入れた。
雪山は息が白み、肌を刺すような厳しい寒風で彼らを迎え入れたが、オーヴァードという人を超えた存在である者たちには
寒さ自体は感じるものの生命を脅かすというレベルのものではない。それでも一旦、どのようにFHエージェント達を捜索するか状況を整理する必要はあった。
この雪山のどこかに、奴らはいる。
――残された時間は4時間。
闇雲に探し回っては作戦に支障をきたしてしまう。
言って、頬を緩ませたブレイクブレイドはロッジの裏口から出ていき単独で捜索活動を開始していく。
「私にもそれくらいできますわ!」と意気込んだ麗華は食って掛かるように飛び出していこうとするも、佐野支部長に襟首をつかまれ遮られてしまう。
重力偏差能力を持ち、使い手によっては広範囲の物体の配置を把握することが可能であるバロールに属し
肉体を強化させられるキュマイラの力も併せ持つアーガントはソファーに座り込みそう投げかけた。
しかし私が持つデータによれば矢野さんは私と同じくノイマンの力も行使できるクロスブリード。
音と風を操作する佐野支部長の有用性はこれまで度々証明されてきました、この二つを併せ持つ矢野さんは単独でも……。
あの子ならうちらがカバーできない捜査範囲を補ってくれるはずさ。
絶対的な自信と実績を持つがゆえに、麗華とたった一つ(しかも年下)しか変わらないにも関わらずアーガントは欠点を見抜き、そう指摘した。
いつものごとく皮肉にも聞こえるが彼の言うことは正しく、だからこそ佐野支部長も感情を伺わせない笑顔を浮かべて返すだけだ。
オーヴァードはレネゲイドウィルスに浸食され、適合することで異能力を扱えるようになったただの人間だ。
傷を負えばどのような深手でも再生するし、人知を超えた13通りに系統づけられた様々な力を複合的に行使することができる、まさに超人。
だが、彼らはその力を使うたびにレネゲイドウィルスに蝕まれ、理性を失っていき再生能力に頼れば頼るほど、強力なエフェクトを使えば使うほど、ジャームと呼ばれる心を失った怪物へ近づいていく。
完全にレネゲイドウィルスに飲まれたジャームに単独で勝つことは基本的に非常に困難であり、それを成しえるような強力なオーヴァードであればあるほど危険なジャームが誕生してしまう。
しかし、それを倒すにはレネゲイドを受け入れて力に頼らねばならない。
だからこそ戦闘経験に長けた二人はよく知っていた。
共に戦っていた仲間が、信頼を置いていた部下がジャームへ変貌してしまう苦しみを。
言葉が少なくなった二人を不思議そうに眺めた麗華は、率先してFH捜索の陣頭に立って行った。
【知覚判定:難易度8】
雪山の中に潜むFHエージェント達を探すべくプレイヤー達は上記の判定を試みるも、やはり麗華は失敗した。
佐野 直哉:4dx+1>=8 DoubleCross : (4R10+1[10]>=8) → 9[1,3,3,9]+1 → 10 → 成功
―――風の流れで佐野支部長は林の中に何かがいることを理解した。
集団だ、数は10を超えており何らかの建造物に身を隠していることが風にのった音から伝わってくる。
【彼方からの声】という簡易的なエフェクトを使い、GMPLのメンバーにだけ聞こえるようその旨を伝え
彼は静かにそちらの方角へと接近していき、残る者たちもそれに続いていった。
木々に隠れながら、ハヌマーンの音波操作で自らが生み出す音を殺し、可能な限り気配を殺す佐野支部長の所作は歴戦のエージェントであることを裏打ちする。
このような状況に慣れておりアメリカ人であるアーガントは”NINJA”を思い浮かべた。
山に住まう獣たちすら眠りにつく、この雪に覆われた林を抜けていくと開いた空間に辿り着き、そこには――
かまくらが設営されていた。
佐野支部長はさらに見る、山用の装備を整えた彼らを。
クリスマスイブにガストーチで炊いた火によって調理され、みそによって食欲をそそる煙をたてた鍋をつつくFHのエージェント達の顔に
地球を滅ぼす巨大隕石が迫っている危機感や焦燥はいっさい見られず、それどころか一仕事終えて食事にありつく至福に包まれていた。
無言で気配を消したままつかつかと佐野は近づいていき、鍋を蹴り上げる。
俺
腰を低くし、鍋の中身を受けて熱さに転げまわった春日恭二をのぞき込むようにして彼は言った。
もちろん、佐野支部長は地球に迫りつつある隕石のことを言っているのだが、この春日恭二には一切通じないようだ。
何か勘違いをしている、山に隠れていたため状況を把握できていないことは明らかであった。
瞬間、ディメンジョンゲートが佐野支部長の目の前で開き、アーガントが飛び出してきた。
なりふり構わぬ、鬼のような形相をする彼からはいつもの余裕はかき消されてしまっている。
力任せに振りかぶられた拳は――流石は不死身と謳われる古参のエージェントだけあってか、戦闘態勢に入った春日恭二に軽くよけられてしまう。
そのまま彼は距離を取っていき、迫ってくるGMPLの四名を見張らせる場所へと逃れて見せた。
もはや鍋を蹴り上げられた時のような隙はない。
突如、前に躍り出たアーガントが春日恭二に対峙すると、二人のオールバックを見比べて麗華は首を傾げる。
“ブリッツガルーダ”は三歩あるけば忘れる”鳥の頭”のように、よく似た見た目をした二人を判別しかねているようだ。
人間にも見えない色を見分けられる”鳥の目”を彼女は持たない。
その渦中にある眼鏡をくいっと片手で押し上げ、薄笑いを浮かべた春日恭二はアーガントを見やる。
余裕を見せ、名乗り、構えた春日に対し……アーガントもまた平静さを取り戻し、乱れた髪をかき上げてオールバックにまとめなおすと
そう名乗りをあげ、気合裂帛させ構えた。
そこへぞろぞろとかまくらより、豪雪地帯の厳しい環境で育まれた骨太で見るからに屈強そうな熊のような男たちが現れる。
日本人離れしたロシア人のように堀の深い顔立ちをした彼らは、苛立ちを隠しもせずに四人をにらみつけた。
北の大地を荒らしまわる暴れ熊――FH道民トループは殺気立つ。
不敵にほほ笑む春日に、これまた悪意のにじむ残虐な笑みを浮かべた道民たちは深く息を吸い込み、山を揺るがすかのような大声を張り上げた。
すると、声とほぼ同時にアーガントの足元から巨大な岩のようなものがせり出てきて、真っ二つに裂けると肉を抉るのに相応しい白い突起が見えた。
瞬時にアーガントは飛び退り、仲間たちのほうへ引いていくとようやくそれがなんなのか理解できた。
岩だと思われたそれには二つの目があり、人間など一飲みにできるほどの大きな口があり、骨さえもスナック菓子のように噛み切れるであろう顎の筋肉と鋭い牙が備えられていた。
吹雪ですら肉に触れられないほどの分厚い剛毛をたたえたその顔は、雪の下から這い出てくると真っすぐに逃げた獲物を追っていく。
ヒグマだ。ヒグマと形容するには5mはあり1tにも達するであろう体格はあまりに巨大すぎ、もはや怪獣とでも呼ぶべきそれへ咄嗟に佐野支部長はワーディングを展開するものの
レネゲイドに適応した生物を化学物質により無力化するそのエフェクトは”無力”だった。
オーヴァード、それもジャーム化したヒグマは高層ビルですら一撃でひしゃげさせるベアクローを放ち、能力で重力の壁を作ったもののアーガントは5mほど弾き飛ばされてしまう。
巨体に似合わず、1tもの重量を構成する肉全てが筋肉であるヒグマの動きは速かった。
追撃を加えようと一瞬で間合いを詰めたヒグマにアーガントは再びガードの構えを取るが、咄嗟に爪は矛先を変えた。
――ヒグマは女性の柔らかい肉を好む。
麗華へとその矛先は向けられてしまい、飛び掛かったヒグマは猛る爪を振り下ろしていく。
あまりの素早さと異常な事態に、このメンバーの中では経験の浅い彼女は反応することすらできなかった。
前に出て敵の攻撃を受け止めることは彼女の役割ではない。
代わりに、いつも近接戦闘による陽動を務める矢野が、雪を蹴散らしながら風のごとく麗華の前へ立ち
己のコードネームの由来となる身の丈ほどもある大剣”ブレイクブレイド”でその爪を受け止めてみせた。
耳をつんざく硬い金属音が響き渡り、盾となりながら己の背後にいる麗華へつぶやいていく。
いつのまにか佐野支部長を盾にするように隠れた麗華は、雪を払いながら出ていき
言うと、剣を握る手に力がさらに込められていき、身の捻りを加えることであの巨体が浮き上がっていく。
ノイマンの高速化された思考能力によって即座に効率のいい作用点を見出し、相手の強大な力をそのまま己の力へ変換できる力点へとハヌマーンの能力で衝撃を加えることで成しえた業だ。
そのまま刃先へ音波を流し込んでいき、全身のバネを利用して力を加えた矢野はクマの衝撃としてダメージを与えて見せた。
同じくハヌマーンシンドロームの佐野支部長でもなければ、その攻撃はただ一太刀浴びせたようにしか見えなかったことだろう。
しかしこれだけの動作を一瞬のうちにノイマン/ハヌマーンのクロスブリードである矢野逸人はやってのけた。
空中へ身を躍らせたヒグマへと一直線に飛び上がり、同時にブレイクブレイドの刀身が左右に展開すると、左右一対となった二振りの刀剣が射出される。
緩やかに湾曲した二刀は合わせると鋏となるのだが――今は二刀をヒグマの右腕と左腕へそれぞれ突き刺し、動きを封じて再び大剣を構えると
ブレイクブレイドが合流し、頭数が揃ったことに「やれやれ」とほっと一息ついた佐野支部長は声を聞いて
自らを頭数に入れず、そう勘定をすませた彼はどことなく気が抜けているようにも見える。
死地に臨んでいるにも関わらず、死地には感じられない、ベテラン故の欠落があだとなっているようだ。
己を鍛え、導き、戦地を駆けずり回ってきたブレイクブレイドにとって、思わぬ長い付き合いとなった支部長の心境を察して矢野は短くそう返すだけに留めた。
だがそれは絶大な効果を発揮し、目に真剣のような鋭さを帯びさせた佐野支部長はsiriを見やる。
膨大なデータをインプットし能力を最適化し続けてきた優秀なるAIのレネゲイドビーイングは問われるよりも早く
途端、スキー場のスピーカーというスピーカーを介してクリスマスイブのロッジに相応しい
L’Arc〜en〜Cielの【Hurry Xmas】がオーケストラを思わせる壮大なイントロと共に流れ出していく。
そうだ、こんなところで止まっている場合ではない。
今、自分たちの頭上では地球を滅ぼす隕石が飛来してきており、クリスマスを心待ちにしていた人々を脅かしている。
己と共に戦うUGNの若いエージェントやチルドレン、そしてイリーガルたちは日常と非日常の狭間で揺れ動き、一年間心に傷を負いながらも生き延びてきた。
そんな彼らをねぎらう為にも、この聖夜だけは全てを忘れて羽を休ませてほしいと佐野支部長はパーティーの準備をしてきたのだ。
――Hurry Xmas!!
早くクリスマスよ来いと、まるで佐野支部長をはやし立てるかの如くミュージックはサビへと入っていく。
キャンドルに、戦意に火を灯した彼は獲物である大太刀を構えた。
だが士気を滾らせたのは彼だけではない。
春日恭二のその叫びと共に、一斉にFH道民トループ達は戦闘態勢をとり四人へ襲い掛かっていった。
――戦闘開始――
【行動値一覧】
佐野 直哉:13
春日 恭二:12
siri:8
求聞寺 麗華:6
アーガント:4
FH道民トループ3体:3
戦闘が開始されまずは第1ラウンドのセットアッププロセス。
春日恭二たちエネミー側の行動は特になく、siriとアーガントがエフェクトを使用する。
【コンボ:siriの言う通り】戦術Lv7+常勝の天才Lv7
効果:対象[麗華+佐野支部長+アーガント] ラウンド間、対象は攻撃力が+28されメジャーアクションの判定ダイスが+7される。
【壱式城鉄”インタントオリジナル”】虚無の城壁Lv3
効果:対象[対象:自身] ラウンド間、自身のガード値+9。移動を行った場合効果が失われる。
セットアッププロセスが終了し、行動値が最も早い佐野支部長のメインプロセス(攻撃したりできるいわゆる自分の手番)へ。
まずはオートアクション(行動消費なしで条件さえ満たせば使用できる行動)でアイテム:ウェポンケースの効果で武器:両手剣を装備。
そして、マイナーアクション(主に移動などを行う)でFH道民トループのエンゲージへ戦闘移動で突っ込んでいき、そのまま――
メジャーアクション:コンセントレイト:ハヌマーンLv2+吠え猛る爪Lv1+さらなる波Lv7+獅子奮迅Lv1+疾風迅雷Lv1
効果:対象[FHトループ1~3] 装甲値を無視してダメージを算出しドッジ不可の範囲(選択)の攻撃力19(+28)の白兵攻撃
クリティカル値8でダイスを10個(siriの戦術Lv7で7個増加中)振ることで命中判定を行い、出目と<白兵>の技能のLvを足して達成値とするのだが
これが高ければもっと高いダメージも狙えるが果たして……?
佐野 直哉:10dx@8
DoubleCross : (10R10[8]) → 10[1,2,4,4,4,5,6,7,9,9]+3[3,3] → 13
ダイス目は残念な結果に終わったが、結局FHトループ達はドッジ(回避)ができないため問題なし!
ガードを宣言するしかないがトループ達はガード値を持つ武器や、ガード値を上昇させるエフェクトも所持していない。
13の達成値を切り上げて20とし、10の位の値を【ダメージロール】として参照。
2d10を振ってこれに攻撃力を加えたものがダメージとなるが、さらにDロイス:破壊者の効果によってもう1d10を追加。
佐野 直哉:3d10+6+14+28
DoubleCross : (3D10+14+28) → 13[4,3,6]+6+14+28 → 61
siriの支援(常勝の天才Lv7)もあって61のダメージとなり、一瞬でFHトループ達は壊滅した。
食べ物の恨みから、全身に力をこめて衣服を隆起した”筋肉で破き捨てた”道民トループ達は
バキバキにパンプアップした肉体を雪山に晒し、威嚇のポーズを示す。
大太刀の背で肩を呆れたようにトントンと叩きながら、その弛緩しきった身へと一瞬。
踏み込みと共にその刹那で全ての力を足へと集約させていくと、突風のごとく道民トループ達の間を通過していき、その時には既に大太刀は振りぬかれていた。
まるで暴風、構えもあったものではない荒々しい一太刀が雪原ごと敵を宙に舞いあげ、彼らは雪と共に花火のごとく散っていく。
地面に激突し、倒れたFH道民トループ達にもはや動ける余力を残すものはいない。
道民トループ達におだてられ気を良くした春日恭二が叫んだ時にはすでに、そのような惨状ができあがっていた。
彼の声に応える者はもはやいない。
唐突すぎる展開に思わず、間の抜けた声を春日は漏らしてしまう。
敵を、地表ごと横薙ぎにしてみせた佐野は背後へと振り返り
残る春日恭二との戦闘をゆだねていく。
オーヴァードの戦闘とは常人では目で追いきれない、超高速で繰り広げられるものとなる。
ブラックドッグによる雷速の攻撃やバロールの重力操作による加速、そして最速のシンドローム”ハヌマーン”による踏み込み。
音と衝撃を操る彼らの速さはほんの少し力をこめるだけで超音速にも達する。
麗華たちへ送られた言葉と同時に、春日恭二は駆けだしていた。
春日恭二、マイナーアクション:破壊の爪Lv2+ハンティングスタイルLv2
効果:素手のデータを変更し(攻撃力:-5→攻撃力:10)エンゲージの影響を受けない戦闘移動を行う。
佐野支部長がいるFH道民トループのいたエンゲージをすり抜けて、春日恭二は不敵の笑みを浮かべながら麗華たちのエンゲージへ突入。
そのままメジャーアクション:【不屈の一撃verX’mas】メジャー/範囲(選択)/至近
コンセ:キュマイラLv3+獣の力Lv5+渇きの主人Lv5+血の宴Lv3+オールレンジLv5+吸収Lv3
効果:攻撃力20+装甲無視、命中するとHP+20回復、対象にシーン間あらゆる判定D-3
単体攻撃の範囲を拡大し麗華,アーガント,siriの三名を狙った範囲(選択)の攻撃を放とうとするも、ここでアーガントが【オートアクション】を宣言。
【プロテクトアイギス<天使の魔瞳>】孤独の魔眼Lv3+特異点定理Lv3
効果:範囲(選択)の攻撃の対象をあなた(アーガント)へ変更しさらにガード値を+3d10
春日の攻撃はアーガント一人へ絞られてしまい、そのまま彼へと全力の一撃が見舞われていく……!
春日恭二:14dx7+4
DoubleCross : (14R10+4[7]) → 10[1,3,3,4,5,6,6,6,7,8,8,8,9,10]+10[1,5,5,10,10,10]+10[4,7,7]+10[6,9]+2[2]+4 → 46
しかし、アーガントはあらかじめsiriより手渡されていたウェポンケースで、先ほどミドルフェイズで購入していた【クリスタルシールド】を指定直していたためここで宣言し、オートアクションで装備。
苛立ちと憎悪をにじませてはいるが、これほどまでの力を見せつけられてなおアーガントの表情からは余裕が見て取れた。
春日恭二は鋭い爪をもつ悪魔のものに変貌させた手で、自らの手首を傷つけ血の飛沫をアーガントへ放つ。
滴る血液はその温度を急速に下げていき、周囲の雪を取り込むと氷の茨となって彼の身体を貫いていった。
13のシンドローム中、自在に血液を操ることができるブラムストーカーの能力だ。
その結晶もろともキュマイラの強化された驚異的な膂力によりアーガントを砕くべく拳が放たれていく。
血液に含まれる春日恭二の細胞が彼の身を蝕んでおり、この攻撃を受けてしまえば今後の戦闘行動に大きな支障をきたすことは
選りすぐりの優秀な本部エージェント達の中でも抜きんでた功績をもつ、この”ディアボリックプロテクト”には一瞬で理解できた。
それでもなお、彼の余裕が崩れることはない。
アーガントはリアクションでガードを宣言、さらにオートアクション――
【永遠の城<インフィニットキャッスル>】:イージスの盾Lv3+グラビティガードLv3
効果:ガード値+6d10(これに先ほど宣言したエフェクトの効果でもう3d10増加)
セットアッププロセスで宣言した虚無の城壁Lv3(ガード値+9)とクリスタルシールドのガード値:12を合計して……。
アーガント・フローレス:3d+3d+12+3d+9
DoubleCross : (3D6+3D6+12+3D6+9) → 8[1,2,5]+10[5,3,2]+12+10[1,3,6]+9 → 49
ガードを宣言すると命中が確定するため、ダメージロールへ!
春日恭二:5d10+20
DoubleCross : (5D10+20) → 32[8,9,5,5,5]+20 → 52
装甲値を無視するためダメージはガード値によって削られて――なんと3ダメージに抑えられてしまう。
が! これでも飽き足らずアーガントはさらにダメージ適用直前にオートアクション
【揺れる空間<パペットボックス>】斥力障壁Lv5によってそこから1d10-15のダメージを軽減。
アーガント・フローレス:1d+15
DoubleCross : (1D6+15) → 3[3]+15 → 18
ダメージ3点から18点をマイナスして……結果!ダメージは0!!
構えられた身を覆い隠すほどの盾に放たれた拳を押し返す斥力が加えられ、奇しくも同じシンドロームであるキュマイラの力が生み出す
圧倒的な身体能力で地面を蹴り上げ、まるで拳自体を殴りつけるかのごとく攻撃は弾き返される。
二人が生み出した運動エネルギーはほぼ互角であるがしかし、重力操作によって受け流したことによりアーガントがほんの少しだけ上回った。
お互いに持ちうる複数の力を重ね合わせた激しい攻防であったのだが、あとは細やかにすぎる金属音の残響が残るのみ。
春日恭二は目を見開き、いま己が殴った男の盾を見やると腰を低く落としたまま、鋭い爪で器用に下がってしまった眼鏡を上げた。
憎しみの炎を振りまくアーガントに対し、一旦落ち着きを取り戻したのか春日はどこか飄々と言葉を返す。
完璧に攻撃を防がれてしまったことで、今までどこか浮ついていた彼の目つきは怜悧な光を帯びていく。
――アーガントのメインプロセスへ移行。
メジャーアクションでエフェクトをなにも使用せず白兵攻撃!
(他PCを攻撃から庇って盾となることに特化したタイプなのでエフェクトをそもそも持っていない)
アーガント・フローレス:11dx+1
DoubleCross : (11R10+1[10]) → 10[1,1,1,4,4,5,6,6,7,8,10]+7[7]+1 → 18
そして対する春日恭二はドッジを宣言して充分に避けられる可能性はあったのだが、自分のガードをバカにされたためあえてガードを宣言。
春日恭二:【春日ガード】オート/イージスの盾Lv3+スプリングシールドLv3/ガード値+3d10+10
DoubleCross : (3D10+11) → 23[10,8,5]+11 → 34
アーガントは現在siriのバフ、エフェクトによる支援を受けているため攻撃力は+28されている。
予想外の高いガード値が出たもののまだ、ダメージロール次第では十分なダメージを与えられるはず……が!
アーガント・フローレス:2d10+28
DoubleCross : (2D10+28) → 8[7,1]+28 → 36
春日恭二は装甲値を5点所持しているためアーガントが激情に駆られて放った盾を叩きつける攻撃は
エグザイルの細胞操作で硬質化した爪により、奇しくも完全に弾かれてしまいダメージを与えることはできなかった。